指のピンクベージュのネイルがツヤツヤと光っていた。

雫のついたグラスは抱えられ、喉には冷たいミネラルウォーターが落とされた。






「どうしたの?表情が暗いわよ?気分でも悪いの?」


心配した優美が、潤んだ瞳でこちらを見ていた。




「あ、ううん。何でもないの。


ただ、このノクターンって曲、うちの父親が好きな曲だったの。」




優美も表情を少し落とした。






「そうだったのね‥。

体調が悪いのかと思ったわ。今でも辛いのね。」









少し慌てて怜香は言葉を走らせた。

「あ、ううん、気にしないで。

今は何でもないんだけど、ちょっと思い出しちゃっただけなの。









優美は、優しく笑って言った。


「でもね、今も怜香に思ってもらえて、きっと、お父様も喜んでいるわ。」








「そうね。

私も今はあんな素晴らしい父の娘として誇らしいの。

でも、やっぱり、今でも生きてたら、父の前で、この曲を美しく弾いて聴かせることができるのに‥ってたまに思うの。」


「怜香‥。」





「ごめんなさい、こんな雰囲気になってしまって…。



ショパンってね、男性にしてはあまり手が大きくないの。
だからほら、私くらいな手をしていてね、指もそんなに太くないわ。」



「そうなの。女性みたいな手をしていたのね。。」





話を切り替える為にショパンの話をしたつもりだったが、声は寂しさに満ちていた。


そのせいか2人とも無言の間を埋めることが出来ず視線を逸らしていた。





怜香は優美の同情に似た心配そうな視線に耐えられないと同時に、少し苛立った。


誰にも自分の気持ちはわからないだろう。







きっと優美は自分のことを思って言葉をかけてくれている。

わかってはいるけれど、慰めの言葉を聞くたびに、何もわかってないような心無い言葉にしか思えなくて、少し卑屈な気持ちになった。






けれど、優美はそんな自覚もなければ怜香のそんな卑屈さにも気付いてないだろう。





大切な友人なのに、見えない壁を作ってしまう。

そんな自分の矛盾に苛立ちもあったのかもしれない。







店内でのピアノの曲が切り替わる中、プレリュード第15番「雨だれ」が流れていた。


曲と同じく気持ちの行き場を失っていくようだった。






しとしと心に降る雨は、寂しい気持ちと大好きな父への思いから来る言葉にできない感情の涙だった。。



当然のように、

もう降り止まないかのように、

しとしと降る雨に心が冷たくなっていった。









足早にウェイトレスが近づいてくる。

前菜が運ばれてきたようだ。


パレットのようなお皿に色とりどりの料理がのっている。


野菜中心とし、魚介類や生ハムをアクセントに小分けされた料理がいくつかのっていた。

彩り豊かな色彩に二人は目を奪われ、




「わ〜美味しそう!!」




と同時に言葉を発し微笑み合った。






それからは、重い空気も消し去り、ガールズトークに花を咲かせ、仕事のこと、人間関係、最近のファッションに美容、会話は途切れることなく恋愛の話までにいたった。




「ねぇ…、最近、恋してる? 」